女子美術大学 オープンキャンパス 萩尾望都先生 特別講演

2023年7月16日(日)、女子美術大学オープンキャンパスでの萩尾先生の講演会が開催されたので行ってきました。萩尾先生が2011年に女子美の客員教授に就任されてからずっと開催されていたのですが、コロナのせいで中断していました。内山先生によると、萩尾先生は今回の講演も3年ぶりだからとすごく楽しみにされて、どんどん資料が増えていったそうです。3年とおっしゃってましたが、オープンキャンパスでは2019年7月が最後なので4年ぶりではないかと思います(女子美の講演の最後としては2019年の12月になります)。

女子美術大学 オープンキャンパス 萩尾望都先生 特別講演
女子美術大学 オープンキャンパス 萩尾望都先生 特別講演

申し込み開始が7月3日(月) 10:00だったのですが、定員240名に対し、22:30には定員に達したとのことです。相変わらずの人気です。
オープンキャンパス 萩尾望都先生 特別講演のお知らせ

最初に「ポーの一族」の年表(拙サイトのものです。もちろん事前に使用のご連絡いただいています)、次に人物関係図(庄司さんがつくられたもの)が正面スライドに表示されました。これも追加しなきゃいけないから大変ですよね。私も紀元前から年表をつくらなくてはならないと思うとちょっと気が遠くなるので、保留しています。いずれ対応します。

次に「ポーの一族」の登場人物の中で特に重要な人物が表示されました。

「ポーの一族」登場人物

<ポーの一族>
エドガー・ポーツネル
メリーベル・ポーツネル
ポーツネル男爵
シーラ
アラン・トワイライト

大老(キング)ポー
ハンナ・ポー
アーサー・クエントン郷
クロエ
シルバー
バリー・ツイスト

<エヴァンズ家>
エヴァンズ伯爵
メリーウェザー
オズワルド・エヴァンズ
ユーシス
ヘンリー
シャーロッテ
エディス

<ポーの一族以外のヴァンパネラ>
ファルカ
ブランカ
ダン・オットマー
シスター・ベルナドット
サルヴァトーレ・ルチオ
オリオン

「ポーの一族」の重要人物は主人公のエドガーとアラン。主人公の名前を「エドガー・ポーツネル」に、作品タイトルを「ポーの一族」にしようと思っていたら、エドガー・アラン・ポーが好きなので、「あ、アランが残ってる」と副主人公なのに簡単にアランにしてしまった。

メリーベルの名前は“メリー”と“ベル”で「美しいメアリー」という意味でつけたのだけれど、メリーウェザーとかメリー某という名前が当時イギリスにあったので、つけても大丈夫だろうと思ってつけた。

エヴァンズ家はエドガーの妹のメリーベルがロンドンに養子に出されて、恋に落ちる相手がユーシス・エヴァンズ。そのお兄さんがオズワルド。エドガーの親戚筋の一家ということになる。

ポーの一族ポスター:初出:週刊少女コミック増刊フラワーコミック 1974年春の号 ふろく

すごく初期に描いたイラストで、最初の三部作の連載が決まったときのキャラクターがだいたい入っている。三部作とは「ポーの一族」「メリーベルと銀のばら」「小鳥の巣」。この構想で連載をやらせて欲しいと言ったら「ちょっとお前にはまだ早いよ」と言われたので、どうしても描きたかったので外伝の方から描こうと。外伝と言ってもでっちあげなんだけど。それでサイドストーリーをつくって、グレンスミスとかチャールズとかそのキャラクターもちょっと入っている。
「すきとおった銀の髪」を描いて「ポーの村」を描いて「グレンスミスの日記」を描いたら、さすがに編集が気がついて「これ、同じじゃないか!」と。「それだったら描きたいって言ってたやつ、もう1回もってこいよ」というので、めでたく連載ということになった。強引にやってみるものですね。

エドガーとアランの出会いのシーンのスケッチ。どんなふうに目を合わせるかとか、いろいろ浮かんだシーンをスケッチブックに描いて、翌日になっても覚えているものを使おうと思って。たいてい忘れてしまう。翌日見ればそうだったな、と思い出せるのだけど、時々思い出せない「なんだろうこれは?」というときもある。

1972年「すきとおった銀の髪」

ちょっと編集が描かせてくれるというので、外伝の話で行こうと決めた「すきとおった銀の髪」。ここで初めてメリーベルとエドガーが現れる。エドガーはほんとうにちょっとしか出てこないので、読者からは怖がられ、「何、あのお兄さん、キモイ」とか言われた。

最初に少年のチャールズが出てくるが、チャールズと少女のままのメリーベルと話している。最後はチャールズがおじいさんになっている。でもメリーベルはそのまま変わらないでいる。時間が経っているのに「なんであの子は変わらないんだろう」と思っている場面。ここでは言わないけれど、不思議な人がいる。吸血鬼じゃないかしら?というところで終わっている。

1972年「ポーの村」

これは吸血鬼の一族が住んでいる村。そこに迷い込んだグレンスミスが一人の少女を間違って撃ってしまう。大けがをしていたはずなのに、翌日には元気になっていた。やっぱり不思議な人たちだと。そう思いながら家に帰っていくのだけど、あの人たちは何だったんだろう?と思う話。

1972年「グレンスミスの日記」

グレンスミスが家に帰ってから「なんかよくわからないけど書いておこう」と日記を書く。その日記を娘がグレンスミスが亡くなった後に読む。「ポーの村」に迷い込んだみたいだなぁと、それはそれとしておいといて、自分の生涯を送るのだが。彼女の孫のルイスがエドガーと会う。伝承だったことが本当にあるのかもしれないなというのは、ちょこちょこ人生の中で現れてくる。ルイスが出会うのはエドガーとアランなのだけれど、この作品の中ではなぜこの二人がここにいるのかは、まだ全然明らかにさせれていない。それにエドガーが「メリーベルは死んじゃった」と言っている。それも何のことかわからない。それで本格的な話が「ポーの一族」になる。

1972年「ポーの一族」

メリーベルとエドガーはここではお父さんとお母さんとおぼしき人と一緒に「ポーツネル一家」となっている。ここでやっとアランが出てくる。エドガーがアランと出会って友達になる。だけどシーラ夫人もポーツネル男爵もメリーベルも全員死んでしまう。怪しいとわかって銀の弾丸を撃ち込まれたりして。エドガーは孤立無援になってしまうので、アランを誘う、というお話。

最初の階段を降りてくるシーン、2018年に宝塚で「ポーの一族」舞台化したことがあった。演出の小池先生がマンガからぬけ出たようなシーンを舞台にこの通り描き出されていて、すごい感動した。小池先生には足を向けて寝られない。

1973年「メリーベルと銀のばら」

エドガーがなんで吸血鬼になったのか、という話が「メリーベルと銀のばら」という子供の頃に話に戻って始まる。二人は森に連れられて捨てられ、拾ったのは吸血鬼のおばあさんのハンナ。ハンナが人間二人を自分の館で育てていく。そのうちに、エドガーは大老という親玉のおじさんに仲間にされてしまう。メリーベルは、ここは吸血鬼の館だからとエドガーがロンドンに逃がすが、ずっとお兄さんはどこだと言って待っている。エドガーは最後にお別れに来るが、メリーベルはどうしてもついて行きたい。恋人が死んだばっかりで辛かったので、一緒に行くと言ってエドガーの仲間になってついていく。

【Q】ここまでの「ポーの一族」はどういう広がりで描くつもりだったのか。
【A】西洋のコスチュームが好き。時代を設定するときに、どの服を着せようかというところから始める。政治的な背景や民族的な背景より、絵に描いたときに「この服がきれい」「絵画に出てくる」「スレンダーな服がきれい」といったところから入る。時代があちこち違うと、この服のスタイル、あの服のスタイルと楽しみがある。服広がりでいろいろ考えている。

【Q】吸血鬼をテーマにしようとしたのはどこから発想があったのか。
【A】吸血鬼にしたのは、ファッションの本を見ていたら急にひらめいた。18~19世紀は男性が長いロングコートを着ている。マントを翻して少年が丘に上がっていくというシーンが浮かんだ。夕日が沈んでいく。少年は一人ぼっち。彼と会話をした。その子が「僕は一人ぼっちなんです。」「どうして?友達いないの?暗いから?」「僕は吸血鬼だから友達がいないんですよ。」吸血鬼がマントを翻して、しかも少年というのがおもしろいなというのから、いろいろ浮かんできた。なんで吸血鬼だったんだろう。仲間はいないのか。この子は一生このままで生きていくんだろうか。どのくらい長い間生きているんだろう?とかずっと考えていたら、3日くらいで全体の構造がまとまった。

吸血鬼ものというのが小学校の頃流行ったけれど、どの吸血鬼も口からドロドロ血を流していて、すごくこわかった。オカルトには弱かったのだけれど、ある時、石森章太郎先生が「きりとばらとほしと」というとてもロマンチックな吸血鬼ものを描かれた。一人の女の子が過去・現在・未来と吸血鬼になって時間を旅する話。これがとてもきれいで、こういう吸血鬼なら怖くないなと思った。自分が描くときは旅をするけれど、怖くない吸血鬼にしよう、ロマンチック系でいこうと思って、この話を描いた。

1973年「小鳥の巣」

ドイツのギムナジウムが舞台になった話で、ここにエドガーとアランがロビン・カーという少年を探しにくるという話。なぜギムナジウムかというと、私がヘルマン・ヘッセが好きでドイツ文化に憧れていたから。いろいろなキャララクターが出てくるが、全部ヘルマン・ヘッセの小説に出てくるキャラクターの名前。「グレンスミスの日記」の最後の一コマがドイツのギムナジウムが舞台。あれと「小鳥の巣」がつながっていく。

「ポーの一族」の主な場所

イギリス
ロンドン
ラトランド
ドーバー
レスター
チェスター
ヨーク
アングルシー島
リトルヘブン(創作)
スコッティ村(創作)
ウィッシュ村(創作)

ドイツ
ベルリン
ケルン
ボン
ミュンヘン
ブレーメン
ハンブルク

フランス
パリ

イタリア
ベネチア

ギリシア
ポーの島
(テラ島の近く)

【Q】ほとんどがイギリスだったけれど「小鳥の巣」でドイツに飛んでみようと思った理由は何か?
【A】ドイツはヘルマン・ヘッセが好きだからというのと、イギリスはいい学校だと転入することは難しいと当時言われていたから。
エドガーとアランがドイツ語をいつ覚えたんだろうと思った(笑)。吸血鬼は昔から生きているわけだから語学が堪能でないと生き残れないのではないかと思った。吸血鬼は言語は感覚的に覚えやすい体質(笑)。

【Q】ドイツの場所はどうやって選んだのか?
【A】「小鳥の巣」の学校があったところはたぶんボンかケルンの近くのどこかというくらいで曖昧で、ちゃんとしてない。ミュンヘンは「わたしに触るな」に出てくるのだが、ミュンヘンのマリエン広場に古いからくり時計があって、それがとてもおもしろいと思った。からくりものが好きだから。

【Q】イギリスがもともと舞台の作品で、吸血鬼というと違う国かなと思ったりするのだが、やはりイギリスでなければならなかった理由は?
【A】「吸血鬼ドラキュラ」の舞台がイギリスだったから。吸血鬼は元々はどこからか他からやってくるのだけれど、伝統的に吸血鬼はイギリスがいいかなと思った。他の国にも吸血鬼の伝統はあるのだが、イギリスが一番しっくりくる。イギリスは神話の国で、もともと神話伝説は非常に豊富。日本に紹介されているジャンルが圧倒的に多いので入りやすかった。「ピーターパン」「不思議の国のアリス」「ナルニア」などファンタジーがイギリスは多いので、入り込みやすかったというのもある。

アングルシー島は最近の作品に出てきた地名で実在する(「春の夢」)。創作された地名もある(リトルヘブン、スコッティ村、ウィッシュ村など)。あたりさわりのないネーミングで、このくらいだったら「こんな場所ないよ」とは言われないだろうと。スコッティ村というのはウエールズに昔疫病で全滅したという村があって、それをもとに創作したもの。

ギリシャについては、今連載している「青のパンドラ」ではギリシャを舞台に、大老ポーがどうやって吸血鬼になったのかという話を展開している。

1975年「エヴァンズの遺書」

「小鳥の巣」で「ポーの一族」シリーズはいったん終わったのだが、単行本がすごく売れたので、編集から「再開しないか」と言われて、じゃあ再開しましょうということで「エヴァンズの遺書」を始めた。最初の設定から派生したものだから、いろいろな辻褄合わせがここから始まる。

オズワルド・オー・エヴァンズの子孫がいて、事故で記憶をなくしたエドガーを拾ってしまう。昔エヴァンズという人がエドガーとメリーベルという人が現れたら、遺産を全部譲れという、ちょっと困った遺書を残している。その遺書を受け継いだヘンリーが弟と諍いながら、エドガーをかわいがって、できれば息子にしたいと思っているのだが、途中で記憶を取り戻して消えてしまう。

1975年「ペニー・レイン」

アランを「ポーの一族」の最後で仲間にして、その後どうなったか、という話。アランが吸血鬼に目が覚めて気がつくまでの間、エドガーがずっと面倒を見るという話。

1975年「リデル森の中」

その後すぐ、二人が幼稚園生くらいの小さな女の子を森の中で拾って、二人で育てることにした話。子供が子供を育てていて、しかもエドガーとアランは成長しないので、あまり一カ所にいられない。リデルを連れてあっちに行ったりこっちに行ったりして。ある程度大きくなったら人間界に戻してあげるという話。リデルはそのことをおばあさんになってからも覚えていて「あの二人は何だったんだろう?」と。

1975年「ランプトンは語る」

今回はカラーページがあるからと。カラーがちょっと長いので、肖像画を描く話を入れようと思った。エドガーの肖像画が残っているという話。ジョン・オービンが肖像画と館を手に入れて、エドガーに会ったことがある人、エドガーが書かれている本を持っている人を一同に集めて、エドガーという少年は何者かということを語るお話。絵はランプトンという名前がついているけれど、実際の顔はエドガー。

1975年「ピカデリー7時」

ロンドンに出没したエドガーとアランの話。訪ねて行った一族の人が殺されて消えてしまっていた。その人が育てていた養女がお父さんいなくなってしまったからと依頼をしてくる。それで危険に巻き込まれたという話。

1975年「はるかな国の花や小鳥」

二人で旅をしているときの話。ちょっときれいなお姉さんと知り合って、そして別れていくという話。

1975年「ホームズの帽子」

シャーロック・ホームズの帽子をかぶっているジョン・オービンが、ここでエドガーと出会って、「変だ」と思ってずっとエドガーを追いかけていくという話。この人が「ランプトンは語る」でみんなを招集して、エドガーのことを話そうじゃないかと集めた本人。この人の若い頃の話。

1975年「一週間」

エドガーが出かけているので、アランが一週間一人で過ごした、という話。エドガーはなんで出かけているのかというのは「春の夢」に出てくる。エドガーはアランを連れていろいろ動いているので、元々の「ポーの一族」からアランをなんとかしろと何度もせっつかれて、言い訳をするために出ている。

1976年「エディス」

エヴァンズの子孫のエディスの一家の話。オービンはずっとエドガーを探して、歳をとった。これは夢の中でエドガーと会うシーン。エディスは事件に巻き込まれて、最後にアランが火の中に落ちて消えてしまう。時計と一緒に落っこちてしまった。

最後は、このシリーズは終わりと思って描いたシーン。エドガーは花畑の中で倒れているけれど、アランもいなくなっちゃったし、もう僕はどうなってもいいやという感じ。土と葉に埋もれていったという感じで終わってる。扉を閉じて、という感じだった。1976年のこと。

エドガー年表覚え書き

1740年 エドガー生まれる
1879年~ リデル2歳と出会い、育てて8年暮らす
1887年 リデル(10歳)を祖母の元へ
1888年9月1日 アーサーとレスターで出会う
1889年8月21日 アーサー死去。ヴァンパネラになる。
1957年 ロビンカー(12歳)5月の創立記念祭の前日に自殺
1958年 ベニスでコンサート「ホフマンの舟歌」
ベニスでロビン・カーをファルカにやる相談
1959年 ガブリエルギムナジウムに行く。

(右側の年表がメモをする前に消えてしまいました。どなたかメモった方いらっしゃいませんでしょうか?。いらしたら トップページの「お問い合わせ」からご連絡ください。よろしくお願いします。

最初のシリーズを終えて再開するまでの間に何があったかというと、夢枕獏さんが会う度に「萩尾さん、「ポーの一族」の続き描いてよ。僕、読みたいなぁ」と言われて。すごい甘え上手。会うたびに読みたいなぁと言われて、段々かわいくなってきて。リップサービスで「もしかしたらそのうち描くかもしれませんよ?」と言うと「いつ描くの?」「いつ描くの?」と。しまったと思った。しょうがないから一回描かなきゃと、と思って。
いろいろなストーリーを考えたけれど、どれもうまく発酵しない。そのうちに『フラワーズ』から「創刊15周年記念号をつくるから短編描きませんか?」という話がきた。じゃあ読み切りで「一週間」や「ピカデリー7時」みたいな、かわいらしい短編を描いて、漠さんに「描いたよ」と言って逃げようと思った。「エドガーの話を描きます。16ページお願いします。」と言った。

それまで考えなかった、エドガーとアランのドアを開けた。そうしたら、二人が並んで座っていて「僕たち、ずっとここにいたからね」と言ってしゃべり始めた。あんなことがあった、こんなことがあったと、ものすごいおしゃべりになった。びっくりしてしまい「ごめんね、これまで」子供を捨てて、成長した子供たちに会ったような気分。いや、吸血鬼だから成長しないんだけど、なんかお母さんみたいな気分になってしまった。これは描かなきゃと思って始めたのが「春の夢」。
それで最初は16枚ですと言ってたけど「すみません、20枚にしてください。」「24枚にしてください」‥話がまだ終わらない。とうとう「春の夢 第1話 続く」になってしまった。本当に申し訳ない。

2016年「春の夢」

第二次世界大戦中にエドガーたちはどうしていたか、ということを考えて、最初はドイツやフランスを舞台に考えていたのだけれど、全然成長しなかったので、またやっぱりイギリスに戻ってきた。そうしたら、うまくするっと「ここだよ、僕たちがいたのは」という感じで、アングルシー島に案内してくれて、戦火から逃れて田舎に引きこもっていた。そうしたらそこにドイツからきた難民の少女が現れ、その子と友達になった。それで話が始まった。

シューベルトが「冬の旅」という歌曲集を〔詩人ヴィルヘルム・ミュラーの〕詩に合わせてつくっている。「冬の旅」の詩は失恋した旅人がさまよっていくもので、有名なところでは「菩提樹」という歌が中に入っている。その中のタイトルの一つが「春の夢」。
この作品を描き始める少し前に「冬の旅」の笠井叡さんの舞踏を観に行った。それがすごく素敵だった。詩と一緒に、エドガーとアランが戦争中にどこかに避難していて、こんな歌を歌っていたという話を描こうとしたら、うまくつながった。「春の夢」という話は故郷を離れて彷徨う若者が「こんな冬に、春がくればという夢を見ている私を世界は笑っている」という、逆説的な一節。憧れがあるのだけど、それがあるから逆に悲しいという話。

2018年「わたしに触れるな」

アランが死んだ後、エドガーはどうしていたかという話。ドイツ、ミュンヘンのマリエン広場にトランクをもって現れる。トランクの中には焦げて真っ黒になってしまったアランがいるのだが、これまでエドガーはどこにいて何をしていたのか、ということがチラっと出てくる。

ここで「春の夢」に出てきたファルカが登場する。ファルカは昔の紅ルーシ地方の古い吸血鬼で、空間移動をする能力をもっている。エドガーにそれを一度教えたことがあって、エドガーが「エディス」のラストで火事になったときに、瞬間的にアランと一緒に移動してどこかに行った、という設定になっている。これも後付けで考えた。どうやって助ければいいかということを考えて、瞬間移動したことにする。でも瞬間移動なんて、いつ覚えたんだ?ということでファルカを出してファルカに教えてもらった。後付けで自分でもずるいなと思う。

炭になったアランをトランクに入れて、なんとかアランを元に戻したいとファルカに助けてくれと言いにくるが、という話。

2018年「ホフマンの舟歌」

アランが炭になる前、ヴェニスでコンサートをやっているときにバリーというちょっといわれのあるお兄さんと知り合う話。「ホフマン物語」という音楽が好きで、「ホフマンの舟歌」にはまってしまって一日中聴いていた。なんて美しい曲だろうと思って、こんなに美しいのだから、この曲で一つ固めてしまえと思ってこの作品ができた。

2019年「バリー・ツイストが逃げた」

ヴェニスで出会ったバリーはどんな人物か、もともとバリーはどこにいたのか、なんでやってきたのか、ということでこの話が出てくる。ポーの村にいた人だけれど、ポーの村の地下にはお兄さんのフォンティーンが蔦でからめられ閉じ込められて、封印されている。大老ポーの怒りに触れて閉じ込められたらしい。なんとかお兄さんを助けたいというバリーの思惑があって、いろいろ画策をしている。

バリーはヴェニスでアランと会って、勝手に友達が出来たと思い、アランの追っかけをしている。バラ園で出会い、話をしている。尼さんもいわれがあり「春の夢」で出てきたクロエ。エドガーを食おうとして失敗して、ポーの村から追放された人。尼さんのふりをして、病院で末期の人の命をもらっているという、悪いことばかりしている。

2019年「カタコンペ」

バリーがアランにご執心で、自分のことをわかって欲しいと思う。バリーには趣味があって、ヘルマン・ヘッセの詩集を読むのが好き。なんでかというとヘルマン・ヘッセの詩集を読んでいたら、絶対バリーは好きだよねと私が勝手に決めたんだけど、すごいロマンチックなところがある人。そのロマンチックさでもって、このカタコンベ、頭蓋骨ばかりある地下のお墓にアランを誘って、一緒に孤独感を味わおうとするのだが、アランはイヤがって怒って逃げてしまう。

2019~2020年「秘密の花園」

アランが吸血鬼になってヨークシャーあたりを彷徨っているときに、アーサーと出会って、彼の屋敷でお世話になる話。その間にアーサーはエドガーの絵をどんどん描く。画家になりたかったアーサーがどうしてランプトンにこだわるのか、どうして一人で住んでいるのか、顔の傷はどうしたのか、そういったいきさつが全部語られる。最後に彼は肺病で死んでしまう。エドガーのアドバイスもあってポーの一族に加えてもらう。

ポーの一族の「花」

バラ
赤色のバラ
青色のバラ

カウスリップ(キバナノクリンザクラ)→黄色
スノードロップ(ガランサス)→白色
オオアタセイトウ→紫

「ポーの一族」、特に今回の新シリーズには花がたくさん登場する。花は作品の背景としてとても役に立つ。カウスリップはたまたま見つけたもので「秘密の花園」に出てくる。アーサーのことをずっと考えていると、あの人は耳から口にかけて傷をもっているから、神経系がやられている。それで執事のマルコは料理もつくっているのだけど、旦那様の神経をなだめるためにカウスリップの花を煮詰めてワインをつくっている。庭に生えているものでハーブはないかと思って、イギリスのハーブについて調べていたら、カウスリップは神経を鎮める作用があるとあった。アーサーには良いが、つられてエドガーが飲んだらエドガーはおなかを壊してたいへんなことになってしまう。

スノードロップは「春の夢」に出てくるドイツから避難してきたブランカが、おじさんが病気だからと慰めに摘んでもっていく。スノードロップの花言葉は「死を招く」。ブランカは知らなかったけれど、そう言われてショックを受ける。でも森の中で白い花が春先にばーっ咲いている写真があり、絵的にはきれい。

2022年~「青のパンドラ」

今回はアランを復活させることが最大の目的で始めた連載なので、そのためには何か不思議な力を借りなければいけない。大老に登場してもらうことにした。だいたい大老ポーはどこから吸血鬼になったのか?という話を大老としていたら、自分はギリシャに生まれて、という話が始まった。昔はかわいい美少年だった。お母さんがいてお父さんがいて。お父さんは漁師でお母さんは病気だった。近くに岩山があって「血の神」というものを奉っていた。

別件で自分が考えたSFがあったが描いてはいない。地球に落ちてきた宇宙人の話で、壺に住んでいる。その話は忘れていたけれど、あの壺を登場させてもらおうと思って、その島の神殿にその壺が奉ってある。多分、宇宙人か何かがいる。一つではない筈だけれど、とりあえず一個。それは自分が妖気をもらうために人間に取り憑いて操る。大老は青い霧を吸って吸血鬼になったんだと言った。

ポーの一族の「ポー」とは何か?「ポーの湾」とか「ポーの山」とか「ポーの国」とかあったんだよね、きっと。結局「ポーの島」はあった。ポーの島に住んでいたイオン(大老ポーの名前)はそこで吸血鬼になった。

近くにテラ島という島があって、海底火山の噴火でほとんど水没してしまう。それに巻き込まれてたくさんの島が沈むが、ポーの島もそのとき一緒に沈んでしまった。大老はそこから逃れて、あっちに行ったりこっちに行ったりしているうちにローマにたどり着いたという過去の設定がいろいろあって、まだ描いていない。

真ん中でゴーゴーやっているのは、炭の中から、大老が火を取り除いているところ。火を取り除いたら、はげ頭のアランが現れたけど、まだ動かない。そこで壺をもってきて「血の神」の力でアランを復活させよう。但し、復活できるかどうかわからない、と大老は言ってる。でもやってもらったら、いろいろあってエドガーのせいだけど、壺が割れてしまった。それで中身が全部アランの中に入ってしまう。アランが壺になってしまった、という話。
でも、そうなったらどうなるんだ?困ったな。

「青のパンドラ」はエドガーが出てきた年の2016年に設定されている。2016年から2023年の間に世界ではいろいろな事件が起こっている。それと関わる筈だけど、まだ秘密。

会場から質問

「表現者を志す若い方へメッセージをお願いします」

若いということは未来があって、体力があるということ。素晴らしいこと。
自分の信じるもの、自分の描きたいものをどんどん描くといいと思う。
そしてそれをたくさんの人に見てもらって、評価を受ける。
みんないろいろなことを言うと思うけど、聞かなくていい。
でもとにかくみんなに見せて、なんて言われるか聞いて、対応する。
そんな中で自分も作品もだんだん育っていく。あるときは作品が導いてくれることもある。
私の「ポーの一族」シリーズはまさにそういう作品になってきた。
歳をとってからもいいアイディアやいいインスパイアがある場合もあるけど、若くて脳が活性化しているうちに出てきたものがかなりおもしろかったりするので、がんばって、仕事をしましょう。
自分を信じて仕事をしましょう。

最後に、女子美術大学より萩尾先生へ2022年にアイズナー賞、旭日中綬章のお祝いの花束が贈られました。

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