日時:2026年7月19日(日)15:00~16:00
会場:女子美術大学杉並キャンパス 7号館2階7201教室

今回のテーマは「物語の設定」。特にSF作品「11人いる!」「銀の三角」「マージナル」「バルバラ異界」といった複雑な設定がないとできない作品を取り上げてくれました。
「11人いる!」

大学のテストを受ける11人の生徒が宇宙から集まってくる。いろいろな星からくるから、その星のカラーが出るだろうと思い、顔も性別も別々。蜥蜴みたいな人もいたり、岩石みたいな人もいたり、11人の違うキャラクターをとりあえず並べてみた。

カプセルの中に人が入ってるのは、カンニングできないようにしたため。中にパソコンみたいなものが入っていて、一人一人にメッセージがくる。ある程度回答が進むと指令がやってくる。こういう部屋がたくさんある。未来だからカプセルくらいあるのではないかなと。やっぱり現代のテストと落差をつけないといけないから、カプセルが一番わかりやすい。他に何か現代と差をつけるには?例えばカーテンをつけるとか、と考えたが、逆に全体が見えなくなってしまう。卵形のカプセルにしたのは卵が好きだから(笑)

指令がきてそれぞれのカプセルから集まってきて10人1組のチームをつくる。次のシーンが空間を移動していくところ。もう一つのテストを受ける会場だから行くように送り出されていく。

着いたところで照明ががつくと、1人多かった。みんなヘルメットをとって、とりあえず顔を見せる。

「地球(テラ)概略史」
「11人いる!」の世界観がここに書いてある。地球がテラというグループをつくるという設定がされている。当時私はSFオタクでいろいろな人の小説や漫画を読んでいたけれど、宇宙ものでいうと、他の惑星の宇宙人と出会ったり、植民星が増えてきたりする。アジモフが「銀河帝国興亡史」を書いているけれど、宇宙に人類が広がって行く。すると、星と星で交流する。宇宙空間は広いから、どうやって交流するのか。ある空間からある空間に移動していく方法にはロケットもあるが、当時ならワープという方法もあるし、宇宙船も出てくる。宇宙船だけで移動すると何百年もかかってしまう。冷凍睡眠するしかなくなってしまう。それでは話が全然進まない。それで宇宙帝国みたいなものをつくって、こんなふうにみんな交流しているのではないかなと想像しながら考えた。40くらいの星系で、12種類くらいの種族を考えたのだけど、あまり多すぎると収集つかなくなっていくため、はしょってみた。
この絵のイメージについて。未来の話だけれど、ここは思い切り古いものを使った方がいいだろうと。神話性が高いもの。本当はこういう弓なんか使ってないと思うけれど、宇宙に広がって行くというイメージで、弓を引いている女神という象徴の絵を描いて、みんなこういうマークをつけていくというようにした。ギリシア神話にアルテミスという弓を引いている女神の肖像画があるが、そのイメージ。
中学高校と読んでいたSFの宇宙関係のものはとにかく火星人が攻めてくる、何星人が攻めてくる、蜘蛛形宇宙人が攻めてくる。とにかく全部地球は攻められている。それで戦わないとならない。勝ったり負けたりする。仲良く共存する話はないだろうかと思った。
手塚治虫先生の「ナンバー7」という近未来SFがある。いろいろな宇宙人が地球にやってくる。ナンバー7というのは宇宙人と戦うメンバーのことなのですが、仲間の中にも地球人に変装した宇宙人が紛れ込んでいる。本当はその宇宙人は地球人と仲良くなりたくてやってきたのだけれど、思うに任せられないところがある。二重三重の複雑な設定にしているんです。でも私は、地球人と仲良くしたい宇宙人がいるということを「ナンバー7」の設定で初めて知ったもので、仲良くしたいの設定も使えるんだと。戦争ばかりしていたら疲れますよね。資源もどんどん逼迫していくし。
確かに宇宙ものには対宇宙人戦争ものというのがたくさんある。一番最近では「三体」という中国のSFがあり、あれも、宇宙人がこの星はもういいや、どこか他のところに行きたいといって地球にやってくる。
地球人と宇宙人が共存できる作品がSFにはたくさんある。宇宙人は異星人だから文化と文化がぶつかる。そのギャップがおもしろい。いろいろ習慣も違うだろうし、食べ物も違う。婚姻制度も家族進化も違うだろうし。そういうことをいちいち確認しながらつくっていくのはおもしろいなと。

思いついたら描かないと忘れてしまうから、とりあえず全部描く。どれを使うかは後で考えればいい。何かいいアイディアがあったような気がするけれど、消えてしまった。もったいないな、と思うので、とりあえず描く。そういうところから設定が出てくる。


○一日中昼
同じ地域から生まれたアリトスカ・レとアリトスカ・ラという東と西にそれぞれの惑星があって、どうすれば共存できるかというお話で、こういう(「東の地平西の永遠」)タイトルにした。この星には昼が続く時期と夜が続く時期がある。
自転軸が何度か傾いてるから、日本にはうまいこと四季がある。夏はちょっと長い。春分があって、夏至があって、秋分があって、冬至があって1年12ヶ月がまわってくる。逆に北の方は夏に白夜がある。オーロラが見える。自然現象がすごく興味深い。一日中、日が沈まないというのはどういうことなんだろう?と興味があった。だから自分で新しい惑星を設定するときに、一日中昼間だったり、一日中夜だったり、そういうことに惹かれてしまう。
○遮光カーテンの話


一日中昼間の星では特別な織物がある。遮光カーテンの設定は、どこかで寝られる時がないとという事情で出てきた。漫画家は夜仕事をして昼間寝ている。まぶしいと寝られない。だから部屋を暗くして雨戸を閉めている。昼間でも眠るときは暗くないとダメ。今は違うけれど、若い頃はそうだった。なぜ夜仕事をするかというと、朝7時頃編集が原稿を取りにくる。夜のうちに出来ているものを朝になったら渡さないとならないから。ギリギリまで仕事をするから、夜、起きていることになる。
○超能力の話

巫女が強い超能力をもっていて、タダも超能力が強いから感応しているというシーン。
実はSFを描いていながら、機械音痴で、パソコンとメカニズムで世界を構成していくだけだと息が詰まるなという感じ。テクノロジーが発達すればするほど、私は巫女さんとか超能力とか微妙なテクノロジーから外れたものを考えてしまう。AIは第六感ないと思う。人間の能力に戻って巫女さんを出してきたりして、世界は機械だけではないというふうに。
○超常現象


マヤの峰に超能力で光が灯る。超常現象。私は超常現象が大好き。友達がいろんな不思議な現象を見たと。天文学か気象学からくると時々あるけど滅多に見られないとか。富士山の頂上で自分の影が頭の中に見えるとか(ブロッケン現象?)そういうふうな。だからこれは峰に光がばーっと現れる。
○アニメ化について

アニメになったときのキャラクター設定はもともとのものとは違っていた。一番最初にアニメーションになったときのキャラクターは出崎監督がつくったもの。その前の段階でいろいろディスカッションやプレゼンするときに、アニメ用のキャラクターを考えて見ようというので、自分で1回キャラクターを出してみた。でもやっぱり作品を描いてから10年以上経っていたから、ちょっと古いかなと思って、とりあえず参考までに提出してみた。そうしたら出崎さんが元のデザインの方がよいのではと言った。
※アニメ映画「11人いる!」について。DVDセルもプレミアがついて高いし、配信は最近はありません。DVDレンタルがかろうじてあるのみ。YouTubeは違法アップロードなのでリンクは貼りません。
「銀の三角」

「銀の三角」は楽器がもとにあった。楽器というのは不思議なもので、ほとんどの宗教のイベントに登場する。経典を読む声自体が音楽のように聞こえるぐらい、耳から入ってくるもの、身体に感じるものと宗教観が一緒になっている。音がトランス状態を創り出すような。カトリックの教会も音の反響がすごい。神社のお祭りでも、庭でやっても家の中でやっても、壁に響くようにやってくる。それがすごくおもしろい。
○「銀の三角」における設定のキーワード
銀の三角人
超能力
時空移動
予知能力
クローン
時空の調節
時空の歪み
ラグトーリン
エロキュス
マーリー
不死の子供

銀の三角人は金色の虹彩の瞳を持つ種族。その瞳のヒントは猫。3万年前に絶滅しているが、ちょっとだけどこかでひっそりと生き残っていて、宇宙にどこかで影響を与えるのではないかと宇宙管理員といったような仕事をしているマーリーが探っていく話。
宇宙のカリスマみたいなラグトーリンという少女が出てきて、この人がこの時空間を維持するために、いろいろな能力を使う。そのうちの一つが、ここの星にいた人をこちらに移動したり、過去の時空に追いやるということをやる。その人を宇宙のバグだから排除しようとしたり、宇宙を健全な形に戻すための助けにしようとしたりする。こういうところで超能力を使わせてもらってる。
四大文明の発生地、チグリス・ユーフラテス文明というのがあるけれど、「チグリス・ユーフラテス」という言葉の響きがとても美しくて、ずっと考えているうちに、その川辺に誰かが立っているというイメージが浮かぶ。この人は楽器をもっていて、未来からきたのだけど今は過去に戻っているということを勝手に妄想力で思いつく。それに合わせて話をつくっていく。
クローンは1970年代からSFと科学史で林立するようになり、最初はクローン羊のドリーとかが出てくる。だけどすぐにSFの世界ではクローン人間になる。手塚治虫先生もたくさんのクローンを登場させます。複製できるなんて便利。でも怖い。自分と同じ。
当時、山岸先生のマンガを手伝っていて「山岸先生、もしもう一人自分がいたら、速く仕事できますね。」と言ったら、山岸先生が「もしもう一人自分がいたら、仕事を全部任せて私は遊びに行きます」と(笑)
クローンがいたら死んでしまっても何かの機構が完備していたら、また再生できる。万が一、意思半ばで死んでしまっても自分のデータが残っていてコピーがつくれるのなら、かなり危ないことが出来るなと。宇宙空間に行ったり、バンジージャンプしたり(笑)。

死んでしまった、もうこの世界にはいないはずの魂がいっぺんに現れて、一気にマーリーの中に入ってしまうというシーン。人間が死んでしまったら、すっかりそれで終わりというよりは、魂みたいなものがなんか残っているのではないか。そういう願望とイメージがある。科学的に言うと分子とか原子のレベルの話になってしまうけれど、それとは別の次元で何かが進行するのではないか。
「マージナル」

○「マージナル」における設定のキーワード
ミツバチ型社会
2999年
男しかいない世界
不妊ウイルス
夢の子供
マージナル-境界
科学者イワン-キラ
超能力-超総力
砂屋-グリンジャ
岩屋-アシジン
メディカルセンター-メイヤード
カンパニー(株主)-ナースタース
ミツバチ型社会というのは女王蜂がいて、雄のミツバチがたくさんいて、せっせと食べ物をとってくる。女王蜂はせっせと卵を産んで、卵を孵化させて育てるという非常に合理的なローテーション。女王蜂は外に出なくて一生卵を産む。
「マージナル」を描いたのはあるSF作品がきっかけ。その作品のタイトルは忘れてしまった。ある女性がタイムスリップして未来社会に行く。そうしたら子供を産む母に認定されてしまい、一生子供を産まなくてはならない。彼女は寮に閉じ込められてしまい、あなたはもう妊娠しているから動かないようにと言われる。退屈だから新聞を読ませてと言ったら、あなたは文字を読めないはず。出産する母性だから余計な情報は教わってないはずよと言われる。この社会では出産するタイプの女の人は出産用につくられてしまって、出産だけしていればいいから、勉強ができない。短編だったのだけれど、その話の続きがどうなったのか知らない。
感応性の強い“夢の子供”がいる。ここにもクローンが出てくる。イワンという科学者が幸福な子供をつくろうと思って、自分で勝手に実験して、禁止されているから地球のある地域で子供をつくる。逆にあまりにつくり過ぎて集団自殺のような状況になってしまう。その中の子供の一人がグリンジャとアシジンに出会ってという物語。
砂漠はそんなに好きじゃないけれど、きれいだから舞台にする。砂漠の写真はとてもきれい。砂漠があるところは太陽の照り返しが強いからコントラストが強い。なんでもきれい。
「バルバラ異界」

○「バルバラ異界」における設定のキーワード
夢先案内人 度会時夫
息子 北方キリヤ
脳内イメージ スキャン
夢の中の少女・青葉 心臓を喰う
十条奈々美 青葉の祖母。十条製薬の会長
牛海綿状脳症(BSE)プリオン蛋白質が変異したもの
不老不死の研究 エズラ博士
アレルギー
火星
未来 2150年
バルバラ島のバルバラ人
夢先案内人という人が出てくるのだけど、人の意識に潜り込んで、その人の脳内をを探る人。一時そういう設定のSFとかや映画が出てきた。小松左京先生が「ゴルディアスの結び目」という作品を書いたり「ザ・セル」という映画があったり、筒井康隆先生の「パプリカ」や他にもいくつかある。あるきっかけで人の意識の中に入っていって、その人の内面を探って出てくるのだけど、それがおもしろいなと思った。その人の内面の中に入っていったら、その人の内面の中に別の国が出てきたというのが「バルバラ」という国。
度会さんという夢先案内人を職業にしている男の人が、自分の死んだと思った息子に出会ってしまう。そこから彼のいろいろな葛藤が始まる。
エジプトの時代から心臓は大切に扱われて、亡くなると別の袋に入れられる。歴代のフランスの国王の心臓も別の袋に入れられている。そんなに心臓が大切なのかなと思って、強引に心臓を喰って不老不死になるという設定を考えついた。
当時は狂牛病というタンパク質の変異による不思議な病気が流行っていた。タンパク質が何かのきっかけでそんなふうに変異するんだったら、心臓を食べることによって何か変異が起こって不老不死になるという強引な設定。不老不死の人間というのはSFでは結構出てくるのだけど、あまり幸福ではない。不老不死の世界では子供が生まれなくなってしまう。みんな、ずーっと生きているから、ずーっと同じ人と付き合わなきゃいけない。100万人に1人くらいいるといいけど、みんなそうだったら「今日はお前か」「今日もお前か」となる。不老不死の不死はともかく、不老は、歳をとらないのはいい。90歳まで18歳のままパカっと死ぬ。90までギックリ腰にならない不老不死。
不老不死の研究をしている十条製薬という会社がある。その会社にエズラ・ストラディ博士というのがいて、この人が不老不死の研究をしていた。

最初は度会さんが夢先案内人で、亡くした息子と会うという4回くらいの設定だった。描いてみたら、別の世界で息子は生きてるんだなとお父さんが見ている話で、全然おもしろくない。これでは先が続かないと思って急遽話を変えた。こんなことは滅多にないけど、2回目から変更して、息子が生きていたことにして、キリヤくんというのをつくっちゃった。これじゃ話がおもしろくない、どうしようといろんなキャラクターをスケッチに描いていたら、キリヤくんが突然が現れて「僕はキリヤです」「なかなかかわいいじゃない。キミは誰なの?」「度会くんの息子です」「度会くんの息子はバルバラにいるよ」「違います。ボクが息子です」で話を聞いていると‥「じゃあキミはどこにいたの?」「お母さんといた」「お父さんと会った?」「これから会うんです」「お父さんのことどう思ってる?」「お父さんのこと怒ってます」「そうよね。どうして怒ってるの?」「母と離婚したからです」そんなことをいろいろと教えてくれるわけです。渡会さんはそういう息子にどうするのか、とおもしろくなっていく。
連載だから1回載っけてやり直したけれど、読み切りだったらもう1回全部構成し直す。本当に連載は危ない。恐ろしい。2回目を描いたけれど、3回目、4回目がさっぱりわからない。「キリヤくん、キミが頼りだよ」と。いったいどこを着地点にすればいいのか全然わからない。すごい駄作になるかもなぁと。だって先が読めないから。「萩尾さん、どうしたんですか「バルバラ異界」は。話がメチャクチャで辻褄合いませんね」「えへっ、ゴメンね~」みたいになったかもしれない。
うまくキリヤくんが辻褄合わせてくれて。ありがとう。度会くんもキリヤくんの歓心を買うために、どんどんスキルを発揮する。話の数が増えて、どんどん目処が立っていった。


「萩尾望都スケッチ画集III」
「トーマの心臓」シュロッターベッツ学院全体図

劇団スタジオライフで「トーマの心臓」の舞台をよくやってもらっていた。あるとき倉田さんが「どんな学校か設計図が知りたいんです」とおっしゃった。漠然としていて全然考えてなかった。「じゃあ、倉田さん一緒につくりましょうか」と言って、二人でつくった。
ユーリが入ってくる正門があって、それから図書館も必要だし。図書館の窓からは菩提樹のある丘がある。シドと会う西門とか。敷地内に住む先生もいるだろうから職員住宅がある。
質疑応答
Q:映画「11人いる!」公開の少し前のアニメ雑誌で、萩尾先生が「風の谷のナウシカ」くらいやってもらえればという話をされていて、スタッフがビビって、あれが今の最高峰だからという話をしていて。できあがったものを見て萩尾先生から見て、ここは良かったとか、ここはちょっととか、そういうものがありましたらお願いします。
A:映画「11人いる!」は素晴らしい作品。絵柄も動きも音楽もそう。アニメ「11人いる!」の一番いいところは、全体の構築がきちんとまとまっているところだと思う。各キャラクターの個性もきちんと出ていた。ドラマを構築するということは橋をつくったりビルをつくったりするぐらいに、土台と柱をきちんと立てないとドラマは成り立たない。「11人いる!」という作品はエピソードも人間関係も設定もキチンと材料を集めて構築しないと作品として成り立たない。それを出崎監督はよくわかっていただいて、きちっと世界観を構築してもらった。それが一番素晴らしいことだと思う。
Q:「バルバラ異界」は生物学、遺伝、進化などいろいろな知識が齟齬なく設定されているが、勉強するのが大変だと思うのですが、どのように勉強されているのでしょうか?
A:新聞読んだりネットの情報を見たり、使えそうだなというところをちょっとずつ集めて、危ないところは全部きれいなファイルの中に番号何番を見て下さいとしてる。「ハッタリで!」ごまかしている。だいたい心臓を食べたら不老不死になるだなんて、そんなことあるわけない。でもあることにしちゃうという強引なSF作家のストーリーづくり。だからお話はハッタリでなんとかなります。


