漫画家協会チャンネル 萩尾望都先生インタビュー#1 書き起こし

日本漫画家協会が運営するYouTubeの番組「漫画家協会チャンネル」に萩尾先生が登場されましたので、そのインタビューを書き起こしました。(敬称略)

公益社団法人日本漫画家協会チャンネル
萩尾望都先生インタビュー
第1回:2023年4月7日アップ

萩尾望都/特別対談ゲスト:きたがわ翔/司会進行:森川ジョージ

オープニング

萩尾:漫画家協会チャンネル始めます。
森川:はい、お顔を見せてください。
森川:漫画家協会チャンネルです。今回は萩尾望都先生に来ていただきました。よろしくお願いします。
萩尾:よろしくお願いします。
森川:よろしくお願いします。萩尾望都先生の作品で代表作をあげたいんですけど、いろいろありすぎて僕が選べないんで、萩尾さんは何を選びます代表作としたら?
萩尾:その時々で違うんですけど、今はちょうど「ポーの一族」の続きを書いてるものですから「ポーの一族」にしてください。
森川:はい。「ポーの一族」の萩尾望都先生でございます。
萩尾:ありがとうございます。
森川:今日は特別に呼んでいる人がいまして。きたがわ翔君を呼んでるんですけど。なぜいるかというと、萩尾先生の“ただのファン”でございます。
きたがわ:はいファンです。よろしくお願いします。
萩尾:どうも…はじめまして。どうも。
森川:後半の萩尾先生の「レジェンドかく語りき」っていうコーナーがあるんですけど。ここをきたがわ君と対談形式でお願いしたいと思っている次第です。2人ともよろしくお願いします。
きたがわ:よろしくお願いします。

日本漫画家協会について

森川:それではですね、僕、早くきたがわ君と萩尾さんの話を聞きたいんですけど“漫画家協会チャンネル”なんでね。漫画家協会のことを萩尾さんに聞きたいと。漫画家協会とは萩尾さんにとって何でしょう?
萩尾:あちこちで孤立して書いてて、あんまり会うことのない漫画家を繋ぎ合わせてくれるような、そういうグループかなと思って入ったんです。
森川:漫画家、孤独ですもんね。
萩尾:はい、そうですね。いろんな総会があったり。今はやってないと思うけどパーティーがあったり。年に1回か2回。それからの新人賞とか漫画家協会賞の選考会なんかあったりして。そこで滅多にお会いすることのない方々にお会いできて、ご挨拶できて、なかなか面白い時間を過ごしました。
森川:なるほど。はい。で、漫画家協会に入るメリットとか…今説明してもらったもんな。もう漫画家協会のことはこれでいいや。
きたがわ:え、早っ。早い(笑)
森川:理事長と会長とかね、里中さんやちばさんにもずいぶん言っていただいてるんでね。友達欲しいなっていう方がね入ってくれるとすごく嬉しいですよね。
萩尾:そうですね。

「ピアリス」の続きを描くご予定は?

森川:はい。で、質問なんですけど。これあの読者の方にTwitterに呼びかけたらゴチャっていっぱい来たので、抜粋して。もう、萩尾さん…モー様のファン多いんですよ。
萩尾:ありがとうございます。
森川:本当にモー様ファン多くて。これ、どうしよう?どれ…「「ピアリス」の続きお書きになるご予定ありませんか?」っていうのがきてるんですけど。
萩尾:ありがとうございます。構想はあって、ちょこちょこ追加を書いているんですけど、まだまとまらなくて。それと最後にちょっと大きなエピソードを持ってきたいんですけど、それがうまくまとまっていないので、もうちょっとかかります。
森川:うわ、なんかすげえこと聞いちゃった。
萩尾:あ、そうか、あんま言わない方がいいですね。こういうの。
森川:いいです、いいです、いいです、全然。可能な限り何でも答えていただきたい。
萩尾:は、はい。

「スター・レッド」が生まれた経緯

森川:「「スター・レッド」は先を考えずに描かれたとの話を見たことがあるのですが、本当ですか?」
萩尾:はい、本当です。その時はちょうど週刊誌の『少女コミック』が週刊から隔月刊になる境目で、急に本の厚さが大きくなったっていうので。担当の山本順也さんが「3日以内に予告を出せ」って言われて。ええ…って。「3日後に予告出せ」って言われてなんかネタあります?ちょっと怖いですよね。予告編に描いたキャラクターってのはね、主人公はいるんですけど、そのサイドに描いた男の人ほとんど出てこないという。そういう展開で。で、カラー表紙描いて。2色カラーが8枚かなんかあったのかな?それで、とにかく8枚までネーム作ろうって。それから1回目の活版のネームだけ作ろうって言って、本当に綱渡りでした。
森川:いや、すげぇ話だな!こういうの聞けるの嬉しいですね。

最近読んだ漫画「はじめの一歩」の感想

森川:「萩尾望都先生が現在楽しまれている、あるいは楽しみにしてるコンテンツを教えていただきたいです。」
萩尾:最近、Kindleで本や漫画を読むことを覚えて。実は森川先生と対談だからっていうので、代表作である「はじめの一歩」を
森川:ありがとうございます!
萩尾:最初30巻読んで
森川:えぇ!?30巻も読んでくれた!?
萩尾:あっという間に読んじゃって。すごくワクワクしながら読んでいます。
森川:ありがとうございます。どうしよう、きたがわ君、ちょっと今、胸が熱くなってしまって…。
萩尾:ボクシングって好きな人もいると思うけど、要するに殴り合いでしょう?どうしてもこの理解できないところがあるんですけど。一歩君はとにかく純粋で可愛くて。この人追っかけてるとスポーツの世界、勝負の世界に持って行ってくれるもんだから、あんまりハラハラしないで素直に読めました。一歩君頑張れって感じで。そのちょっと前、私ちょっとあの…嫌なことがあってすごいストレスフルになってたんですね。ものすごく夢中で読んでしまって、読み終わる頃にはストレスが全部消えてたんです。ボクシングの醍醐味をね、あ、これかってわかった気がしました。
森川:いやーちょっと今YouTube見てる皆さん、聞いていただきましたか?あの、森川、ものすごい幸せです今。きたがわ君、今、幸せです僕!
きたがわ:いやー素晴らしい。
萩尾:プロの方って本当に心込めて、心酔して描かれるんだなぁと思って。
森川:何を言ってるんですか、萩尾さんは(笑)。萩尾先生が「プロの方」って(笑)。ちょっとね、あの僕、今、胸がいっぱいになっちゃったんですけど、一応司会なんで進みますね。

「半神」について

森川:これちょっと僕ときたがわ君の中でも“ベスト萩尾”っていうぐらいの作品のことを質問されてるんですけど。「「半神」という完璧な漫画をどうして思いつけたのか」。「半神」本当に16ページですげぇなと思うんですけど。
萩尾:あ、ありがとうございます。なんだかネタとかキャラクターって、ぽーんとなんんかやってきません?ある時、ふっと。いろいろこう自分のアイディアこねて脳をこねてる時。で、もともとはそのちょっと前に「モザイク・ラセン」っていう漫画を描いたんですけど、その時、魔法使いにつかまる双子の兄弟っていうのがいたんですね。で、その魔法使いに捕まる双子の兄弟は狭い檻の中に閉じ込められているんですよ。で、弟は美少年でお兄さんは醜い。顔に包帯ぐるぐる巻いて。で、“美醜の対比”でもって檻の中に入れたんですけどね。コマが小さくてね、すごく2人がくっついちゃったんです。描いてるうちに。きゅうきゅうくっついたもんで、これあの双子なんだけどくっついてることにしよう。いわゆるあの“二重胎児”っていうか、ベトちゃんドクちゃんとか。時々ね、ありますよね。家にあの古い「家庭の医学」って本があって。昔のことですから、そういう症例とか写真が何ページかに渡って、こう、載ってるんですよ。で、どんなふうに細胞が…「家庭の医学」ですからね。分割されたらこういうタイプができると。多分、今ではもうきっとね、医学書かなんかの、一般の人は決して触れないような本だと思うんですけど。当時はちょっと読めた。それで、細胞ってこんな風に分裂するんだ、へぇ、とか思いながら見ていて。ちょっと小学校時代に何度も興味があって読み返しちゃったんですね。その記憶があって、それ忘れてたんですけど、その双子を考えた時にくっつけちゃえってっていうんで。あ、このネタって私が昔読んだ医学の本に書いてあったのと関連してるなって思って。本当にくっついて生まれちゃったらどういうふうになるんだろうって言うんで考えたのが「半神」なんです。で、私“双子”ってのがすごく好きで、ちょっと憧れてたんですね。双子だったらお互いの考えることがツーカーで、寂しくなくて、一緒に遊んで、一緒に悩んで、泣いたり笑ったりできるだろうな。だけど結局別人格だから本当はそんなことはないんだっていうのがだんだんわかってくるんですけど、なんか、そういう美しい妹と醜いお姉さんがいたら、やっぱり相手に嫉妬するだろうし、切り離しても「相手が死んじゃうよ」って言われても、「もう切り離すから関係ないわ」とか冷たく思っちゃうかもしれないな、とかね。こういろんな思考のバリエーションを考えて。でも、双子なんだしくっついてたんだから、もしかしたら死んだのお前かもしれないじゃないかっていうふうに話を持って行ったんです。まぁ、そんな感じ。
森川:じゃあ「半神」という完璧な漫画をどうして思いつけたのかっていうことなんですけど、思いついちゃったからってことでいいですかね。
萩尾;思いついちゃったからねぇ。
森川:そうですよねぇ。ぼーっとしてたら落ちてきたというか。

双子のモチーフについて

きたがわ:結構、萩尾先生は双子のモチーフが多いんですけれども。以前、わたなべまさこ先生の原画展に行った時に萩尾先生が寄稿されてまして。「さくら子すみれ子」とかあの辺少しやっぱり意識されてたのかな…。
萩尾:いや、ものすごく影響を受けました。「やまびこ少女」もそうだし「さくら子すみれ子」もそうだし。里中先生も双子の話描いてますよね。ちょっと“双子”って題材だけで、私ちょっとのめり込んで読んじゃうところがあるんです。ちょっと神秘的なものとついつい思っちゃうもんで。双子が好きなんです。
きたがわ:なるほど。

「ポーの一族」の年表はいつ作られたのか

森川:「ポーの一族」についてなんですけど。この質問いっぱい来まして、似たような質問がいっぱい来たんですけど。「「ポーの一族」は大きな流れのあちこちをつまみ取るように短編が描かれていますが、どの段階で全体の年表ができたのかが知りたいです」。ちょっと僕も思うんですけど結構かいつまんで描くじゃないですか。作者の頭の中には年表があるのかどうかってことですよね。
萩尾:年表はね「ポーの一族」の1回目が1872年だったかな。1回目を描いて、過去に戻って、それからまた現代の方に来るっていう段階で、長いちょっと年表を1回書きました。そして書く予定のエピソードのタイトルだけ入れていたんですね。細かいことあんまり考えずに。そのエピソードをどうしてこの時代にするのかで、だいたい私は洋服オタクなもので、このドレスを着せたいとかね、なんかそういうのが全てで。で、それにまつわる政治的な背景と後からいろいろ調べたりしています。

年代ものを描くときの下調べの方法

森川:じゃあね“調べる”について聞きたいんですけど。「王妃マルゴ」っていう漫画があると思うんですけど。「「王妃マルゴ」を描こうとお決めになってから、執筆開始まで準備がどれぐらいの期間があったのでしょうか?実在した人物を描くための歴史、文化、言語、風景、小物や家屋の下調べなど、しかもはるか昔のものですよね。それをどう取材したのか」と。これ僕やきたがわ君はすごく疑問なんですけど。萩尾さんの年代の作家さんってネットがなかったんで調べられないと思うんですよ。
萩尾;マルゴの頃はもうあったので
森川:ネットありました?(※注:「王妃マルゴ」の連載開始は2012年です)
萩尾:はい、調べました。あとあの、例えばこの時代に生きた画家ってのがいますよね。1500何年の画家とか。ヘンリー8世のなんかでかい肖像画を描いたホルベインだか、ホルバインだか。
きたがわ:ハンス・ホルバインですね。
萩尾:そういう画家がいると、その画家をWikipediaで引くと、その時代にその画家が描いたものがざっと出てくるんです。だからテーブルとか床とか壁とか窓とか小物とか、そこら辺で探っていくと、結構面白いものが出てくる。
森川:その手があるのか!
萩尾:あと、宗教画「マリアの受胎告知」で引くと、いろんな年代の時代の「マリアの受胎告知」が出てくる。それから「最後の晩餐」も出てくる。「最後の晩餐」は紀元前の話なんだけども、ドラマ自体はね。だけどその時代時代の人が描くもんですから、13世紀の人は13世紀の「最後の晩餐」を描くわけです。それは13世紀の食卓と一緒なんです。例えばすごく不思議だったんだけど、1枚板にねクロスした足がついてんですよ。どうしてこんな不安定なテーブルで描いたのだろうと思ったら、食事が終わったらね、板とテーブルをばらして片付けるんですよ。テーブルがいつも出されてるもんじゃなかったんです。「最後の晩餐」をちょっと絵で見るだけで、それだけのことがわかってしまう。で、ガラスがいつ頃できたとか、お魚どんなふうに料理してたかとか、なんかそんなこともわかる。
森川:すげぇ!アプローチの仕方が全然自分と違う。すげぇ…
きたがわ:めちゃめちゃ勉強になる。

身体のメンテナンス方法

森川:「漫画家は体力勝負で、肩腰手首を痛めがちな職業だと思うのですが、萩尾先生はどうやって体力づくりやご自身のおからだをメンテナンスされているのでしょうか?」と。いかがでしょう?
萩尾:簡単なことだと、単にニギニギをしている。よくスポーツ選手がくるみをカチカチするみたいに、何にも持たないで、ニギニギ。
森川:やります。これからやります。
萩尾:本当にそれぐらいで何もしない。
森川:それぐらいなんですか?
萩尾:あとは体力を保つためによく寝る。
森川:きたがわ君、今だに120キロくらいのバーベル上げてます。
萩尾:おお!
きたがわ:今はね、そこまではやってないかもしれない。50過ぎてちょっと…たまにはやりますけど。
森川:たまにやっぱりやってるの?
きたがわ:でも若い頃みたいに上げて「どうだ!」みたいなことは、もうさすがに。
森川:なるほどね。
萩尾:すごいねぇ。いや本当、そういう話聞くとすごいなぁと思うけど自分ではやらない(笑)。
きたがわ:いやいや、萩尾先生、そんな(笑)

現在の作画環境について

森川:じゃあ次、最後の質問しましょうか。これちょっとね、僕、こう萩尾さんどうなんだろうっていう。これかなり興味深いんですけど。「先生が今の漫画業界やWebの状況を見て、これからどうなると予想されるか知りたいです。」電子時代のことですよね。
萩尾:そうですね。私も電子漫画結構買って読んでるので。
森川:そもそも萩尾さん、今画材は何を使ってます?
萩尾:アナログとデジタルをセットでやってるんです。デジタルはiPadとクリップスタジオ。アナログはこれまでと同じように原稿用紙とスクリーントーンとサインペン。
森川:あ、じゃあ、もう今の若い作家さんと全く同じやり方してるしてると言っても過言ではないんですよね。
萩尾:この間、星野之宣先生と会ったら、人物は全部ペンか筆で描く。それをスキャンしてデジタル画面上に出して、その上にトーンとか模様とかを描いていく、というんで。「萩尾さん、人物はアナログで描きましょう」って言われました。でも手がガクガクなので1枚書いたらブルブル震えるので、ちょっともうアナログのペン入れは無理。デジタルだと描けるのでデジタルの方にしています。
森川:デジタルのが力を使わないってことですか?
萩尾:力を使わない。はじめたばっかりなんですけど、デジタルってものすごく細い線を描くと印刷で全部飛んじゃうんですね。プリントアウトした時に。プリントアウトしなくて「全部データでください」と言われるんですけど、プリントアウトしてホワイトとそれからトーンを貼らないと。なんか気持ち的に今まだそこら辺の段階なので。少し太めのデジタル線で描くとね、なんか野暮ったいんですよね。で、今その課題に挑戦中です。
きたがわ:萩尾先生、スクリーントーンはアナログでやられてらっしゃるんですか?
萩尾:そうです。まだね、スクリーントーン貼るまで技術がないんです。私もうちのスタッフも。
きたがわ:今、でもデジタルされてる方は皆さんスクリーントーン買うのが面倒くさくて、スクリーン等はデジタルでやるっていう方がほとんど。
萩尾:アナログ時代に山ほど買っちゃったもんだから(笑)
森川:萩尾さんは面白いなぁ。いや、でも、本当、チャレンジャーですよね。
きたがわ:すごいですよね
森川:きたがわ君、すごいね、この話ね。
きたがわ:お宝ですよ、これ。

WEB展開が進む漫画業界について

森川:萩尾さんの描き方はわかったんですけど、「漫画業界やWebの状況を見て」って。漫画業界はどうなっていくのかなと萩尾さんは思っていますかね?
萩尾:表現の世界ではやっぱり表現したいっていう人がたくさんいると思うんですよね。でもこれまでデビューするまで非常に敷居が高かったけど、「きょうの猫村さん」じゃないけど日記感覚で自分の描きたいものを描いたりできる。そこら辺のスムーズに他の人に読んでもらえる距離感が近くなったのはとてもいいことじゃないかなと思うんです。発表していい作品であっても、アンケートが取れなかったら、もう本に載らなかったり、切られちゃったりする悲しいことがなくなって。あんまりお客さんいなくてもWeb上に載ってれば、そのうち共感する人が増えるかもしれないし。Webっていうのはそういう道筋を作ったことで、とてもいいんじゃないかなと思います。私もなんか「このWeb漫画が面白いよって」言われて読んで面白かったもんで、それで紙の本を買ってというのも結構あるので。
森川:じゃあ、買う人も新人漫画家さんも業界に入りやすいってことですよね。
萩尾:そうですね。大きなコミケみたいなもの?
森川:新人さんが入りやすいっていうような答え方した人、僕初めて聞きました。優しいですね、萩尾先生は。
萩尾:私ね日本の漫画って日本の“財産”だと思うんですよね。だからこんな面白いをものもっと世界の人に読んでもらいたい。だけど悲しいかな、ほら、日本語読める人ってそんなにいないから。何だろうね…あの自動翻訳機があれば、漫画のセリフに。
森川:その分野はどんどん進歩していくと思いますね。
萩尾:ねぇ。進歩すると面白いですね。

#2に続く

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