石川県立音楽堂で開かれた「少女漫画音楽史 in 金沢」に萩尾先生が登壇されました。

2025年3月10日、石川県立音楽堂ランチタイムコンサート<スペシャル版>~少女漫画史 in 金沢と題したコンサートが開かれました。青島広志先生の軽快なトークと素晴らしい音楽が展開されるコンサートです。

2023年9月に神奈川県民ホールで開催されたときは、「柳の木」「少女ろまん」「月夜のバイオリン」を演奏されましたが、今回は新作として「フレア・スター・ペティコート」が演奏されたそうです。また「半神」のオペラ化が発表されたようです。詳細はまた追って出るでしょう。

私は残念ながら行けなかったのですが、参加された方からお写真をたくさんいただいたのでアップします。レポートは追っていただけるものと‥お待ちしています!

追記:3月12日、早速レポートいただきました!ありがとうございます。そのまま掲載させていただきます。詳しくてありがたいです。

「石川県立音楽堂ランチタイムコンサート<スペシャル版>~少女漫画史!  in 金沢 少女漫画の神様に迫る!」にお邪魔してきました。

 当日の金沢は、さわやかな快晴。月曜日の日中だというのに、コンサートホール(キャパ1560席だそう)は、ほぼ満席の大盛況! お客様は女性が8~9割の印象でした。舞台上には、フライヤーやポスターにも使われている「ローマへの道」文庫版カバーイラストが大きく投影されています。もうワクワクが止まりません。

 開演時間12時15分ぴったりにスタート。まず青島広志先生が登場されます。作曲家であると同時に少女マンガ研究家でもいらっしゃる青島先生、萩尾作品以外にも、マンガを題材にしたオペラや楽曲を創作されてきました。その明るく親しみやすいお人柄も人気です。「みなさん、萩尾先生のファンの方ですよね?」との問いかけに、こぞって手を挙げる客席。「あーもちろん全員ですよね」と青島先生が納得されると、会場に笑い声が広がりました。朗らかな雰囲気に包まれたところで、萩尾先生を拍手でお出迎え。光沢のあるホワイト系のジャケットに黒いスカートというエレガントな出立ちで、いつもにも増してお美しい。

 演奏に入る前に、青島先生の司会で、しばしお2人のトークが続きます。萩尾先生が金沢にいらしたのは約9年ぶり、同地にお住まいで古くから親交の深い坂田靖子先生とお会いになるためだったそうです。「20代で初めて金沢に来た時は、駅前に能装束の像や、”お三味教えます”と書いた看板があって、すごいなあ、文化的な町なんだなあと思ったのを覚えています」ともおっしゃっていました(ネット情報によりますと、このお能の像は県立能楽堂の周辺に移されたらしいのですが、未確認です)。

 続いて、現在連載中の「ポーの一族」シリーズに話が及び、青島先生が「これからも連載は続きますか?」と質問されました。「まだエピソードがあるので、もう少し描かせてください」という萩尾先生のお返事に、会場からは大きな拍手が! 青島先生も嬉しそうに「男性漫画家よりも、女性漫画家のほうがどちらかといえば長生き、かつ現役を続けていらっしゃるのでは?――牧美也子先生や水野英子先生など――」と。もちろん、水木しげる先生のように、90代までご存命で、長くご活躍された男性漫画家さんもいらっしゃるけれど――とフォローを入れつつ、萩尾先生の今後の末永いご執筆活動に、エールを送られました。

 次に「トーマの心臓」執筆のきっかけについて。「『ポーの一族』を発表した後、長編連載のお話をいただいて、それまで遊びで描きためていた『トーマ』のネームを使うことにしたんです」と萩尾先生。その時、すでに300枚くらい出来上がっていたそうですから、使わない手はないですよね。しかし、連載開始当初はあまり人気がなかったというお話から、「ガード下で本を叩き売りしろと言われたのですか?」と青島先生がご質問。萩尾先生が「いえ、それは『ポーの一族』単行本の話です。初版3万部が売り切れなかったら、お前が売れと編集部にいわれて(笑)」。ご本人の心配をよそに、3日間であっという間に売り切れて、たちまち重版出来となったのは、有名なエピソードですね。
 
 ちなみに、こうしたトークの間、舞台背後のスクリーンにはそれぞれの作品のイメージが投影されており、話題の切り替わりがわかりやすくなっていましたよ。

 さて、いよいよ、演奏の始まり。私は2022、23年の神奈川県民ホールでの公演には伺っておりませんので、比較はできないのですが――。今回は<スペシャル版>ということで、萩尾先生の作品にまつわる楽曲のみに絞り込んだ上演でした。プログラムは下記のとおりです(いずれも、原作:萩尾望都/作曲:青島広志。「アシスト・ネコ /アシスト・ワンコ」を除く)。

・柳の木
・少女ろまん
・月夜のバイオリン
・フレア・スター・ペティコート(新曲)
・アシスト・ネコ
 アシスト・ワンコ

 ソプラノ兼演者の横山美奈さんは、前回、前々回も登場されていたようですが、ヴァイオリンの坂本久仁雄さん、チェロの早川寛さん、朗読兼演者の武内良樹さんらは初参加のようでした(たぶん)。

 以降、各曲、演奏の前に、青島先生による簡単な解説と、ベースとなる作品にまつわる萩尾先生のコメントを交え、ステージが進行してゆきます。

「柳の木」は、「早くに母親を亡くした知人のことを思いながら描きました」と萩尾先生。スクリーンに映し出される「柳の木」のページに合わせ、演奏と横山さん・武内さんの無言劇が繰り広げられました。亡くなった母親に捨てられたような心持ちで、恨んだ時期もあったけれど、年を重ねて初めて、母親のつらさと愛情の深さを理解することができた――少年の心の成長が描かれたマンガの音楽による翻案です。萩尾先生も「素晴らしい曲です。ありがとうございます」と笑顔で喜んでおられました。

 次は1977年に発表されたイラストポエム(というのでしょうか?)「少女ろまん」から”曇り日に”と”風景”、”初夏”の3曲。ソプラノとピアノでの演奏です。萩尾先生の書かれた詩が、そのまま歌詞として歌われます。”曇り日に” は、文字のブロックが複雑に配置されているため「どの順で読めば良いのか」を青島先生が事前にお手紙で問合せされたそうですが、萩尾先生ご自身も記憶になかったとか。いずれも、童謡のような、ノスタルジックで、少しもの哀しい余韻の残る曲でした。

 続いて再びトークタイム。まずは「残酷な神が支配する」について。青島先生から「昔なら発禁になっていたほど過激な描写もあるが、編集部から何か言われなかったか?」という主旨のご質問を受けて、萩尾先生は「何も言われませんでした」とのご返答。また、「少女マンガは昔から同性愛については肯定的だったのではないか」という問いに対しては「愛は良いことだけれど、これは暴力の話。暴力はダメです」ともおっしゃっていました。作品は完結しましたが、イアンとジェルミのその後については、「私にもわからない」と。

 さらに、SFにはあまり馴染みがないという青島先生より、「バルバラ異界」の難解さについて言及がありました。物語のカギである「皆がひとつ(の意識?)になる」というテーマについて、萩尾先生は「ひとつになってしまえば、終わる。”個”が確立していないとダメです。単細胞がひとつだけでは進化がありませんから」とおっしゃっていました。「SFを好きになるには、どういう作品から入れば良いですか?」というご質問に対しては「クラーク、ハインライン、アシモフといった1960年代のSF小説はわかりやすくて楽しいです。短編ならブラウンも良いですね。マンガなら石ノ森先生の『サイボーグ009』などから入ってはどうでしょうか?」とのお答え。さらに「なぜSF作品では、登場人物の衣装が古代ギリシャ・ローマ風なのですか?」と問われると、「紐で結ぶサラサラした服が楽なんじゃないかと……。ドレープを描きたいという気持ちもあります」と笑っておられました。

 さて、作品トークの後は「月夜のバイオリン」。短編小説であるため、画像の映写はなく、ヴァイオリンとピアノの演奏と、武内さんの朗読と演技で構成されています。コンサートと演劇のハイブリットとでもいいましょうか、独特な演出に惹き込まれました。萩尾先生も「本当に美しい曲」と感動されたご様子でした。戦場に赴いたヴァイオリン奏者の辿る運命を描いた本作は、いまだ世界各地で戦争の続く現代、改めて読まれるべき作品だと感じました。

 本日のハイライト、「フレア・スター・ペティコート」は新曲で、この日が初演。横山さん、武内さんが演じる主人公たち、青島先生のピアノとオルガンで、宇宙を流離う男と娼館の少女との交流を描いた、全9ページのSF作品をもとにしています。作中に出てくるタンバリンも効果的に使われていました。演奏後、青島先生が「不健康な曲ですみません」とおっしゃると(笑)、萩尾先生は「いろいろな葛藤が感じられて、面白かったです」と感想を述べられていました。ちなみにこの作品は1979年に「別冊奇想天外 SFマンガ大全集」に発表されたもの。スクリーンにはオリジナルの2色刷り原稿が投影され、「最近は見ませんが、当時のマンガには本作のような”2色刷り”がよくありましたね」と青島先生。萩尾先生は「たいていは赤と黒のインク2色でした。色のグラデーションを使えるのが面白くて、私は好きでした」と。確かに独特の色調が味わい深いです。

 いよいよコンサートも終盤、青島先生から萩尾先生へのインタビューの締めくくりは「今後どんなものを描きたいですか?」とのご質問。「まだ(描きたいものが)たくさんあります」とのお答えに、会場からは割れんばかりの大きな拍手が…。さらに「たまには今回のように、ファンの皆さんの前に出てきてくださいね」と青島先生に促され、「はい、家でずっと描いていると煮詰まってしまうので、こういう機会があれば、なるべく寄せていただきます」と少し恥ずかしそうにおっしゃる萩尾先生。またも大きな拍手が巻き起こりました。

 最後に、萩尾先生が二十歳の頃に作詞作曲されたという「アシスト・ネコ」、青島先生による同曲の替え歌・編曲の「アシスト・ワンコ」が、ヴァイオリン、チェロ、ピアノ、2人の演者、そして萩尾先生ご自身のナレーション(「マンガ家がネコを飼うのは、一説には修羅場でアシスタントをさせるためだといいます」…)で演奏されました。微笑ましく、愛らしく、愉しい楽曲です。入場時にいただいたプログラムと一緒に、この曲の歌詞カードも配られていたので、2つの歌詞を見比べて楽しむことができましたよ。

 演奏が終わると、萩尾先生は「今日は楽しいコンサートにお招きいただき、ありがとうございました。久しぶりの古都のイメージを満喫しています」と晴れやかな笑顔。万雷の拍手に送られつつ、華麗にステージを去って行かれました。作品の世界観を巧みに表現した楽曲に加え、テンポの良い話術で萩尾先生の貴重なお話を引き出してくださった青島先生に感謝です。あっというまの約1時間半でした。

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